ビフォア・サンセット 監督:リチャード・リンクレイター

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☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
とても有名な映画なのでいつかみようと思いつつ後回しにしてきたのだけど、ついにレンタル屋で借りてきた。ところが3部作のうちの1作目のつもりが、間違って2作目の「ビフォア・サンセット」を借りてしまい、冒頭からイーサン・ホークが若くないことに戸惑い、間違ったことにすぐに気がついた。なので前作で何が起こったのかを想像しながらみることになったのだが、それは難しいことではなかった。なにしろ冒頭で主人公の作家ジェシー(イーサン・ホーク)が実体験をもとにしたらしい小説について、書店でインタビューを受けていたから。ウィーンでセリーヌ(ジュリー・デルピー)と一夜の出会いがあり、その後再会できずに9年経過し、まさにインタビュー中のこの書店にセリーヌが来ていたという状況だ。物語としての展開はなく、再会して帰りの飛行機の出発までの短い時間、パリを練り歩きながら会話するというだけの話だ。実際の時間の流れ方と同じように、この短い時間が上映時間の80分程度に切り取られており、それだけに役者の話す内容だけでなく、身振りや表情や喋り方など些細な動きがものすごく大事な要素になっている。最初の出会いから9年がたち、ふたりとももう若くはなくて、互いにいろんな恋愛経験を積んでいる。ジェシーには妻と息子がいるし(妻を愛せないでいる)、セリーヌは何人もの男と付き合ったものの独り身だ。失われたものは大きい。もし9年前の出会いが成就していれば、人生は変わっっていたかもしれないとジェシーは考えている。セリーヌはジェシーがふたりのことを小説に書いて有名になり、現在は家族と幸せに暮らしていると想像してみじめな気持ちでいる。9年前のあの一夜はどちらにとっても大切でかけがえのない思い出であり、あまりにすばらしかったから痛みや喪失感も大きくなってしまっている。そういった心の動きをイーサン・ホークとジュリー・デルピーがうまく演じている。9年ぶりの再会でちょっと緊張しつつ茶化しつつ距離をとりながら互いの近況を語りあう。もはや9年前とはちがう人間でもあるふたりが、今もひきずる気持ちを見え隠れさせながらただひたすら話をするという、絶妙な会話劇だった。

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