ファースト・マン 監督:デイミアン・チャゼル

☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
アポロ11号が人類初の月面着陸を成功させるまでを、ニール・アームストロングの視点から描いた映画。デイミアン・チャゼルがNASAのミッションのような壮大な題材を選ぶとは思わず、意外な感じがしたが、実際に映画をみてみるとミニシアター系の感触をしっかり残しつつの大作映画で独特なものになっていた。アームストロングには3人のこどもがいるのだが、娘を2歳で亡くしている。このことについて、アームストロングはほとんど誰にも語ってないらしい。それだけにその深刻さが際立つと思うのだが、この映画はそこにスポットをあてている。当時テストパイロットをしていたアームストロングは、娘を亡くしたあと失敗をくりかえし、その後宇宙飛行士を志願している。原作者、脚本家、監督らが娘の死と宇宙飛行士への転身を結びつけたくなった気持ちはよくわかる。本人が語ってないので実際のところはわからないが、娘の喪失を軸に月面着陸への挑戦を描いたのはすごくよかったと思う。なにしろ月なんて行けるはずのない場所だったのだから、死者の世界のようなものだ。かぐや姫だって月に帰ったことは死んだことだと解釈されている。娘の死に押しつぶされないためにも、月はアームストロングにとって最適な目標だったのかもしれない。そしてその目標に到達するには、それこそ本当に死と隣り合わせにならないといけなかった。そうした危うさが映像や音で完璧に表現されていたから、観客も当時の技術不足や宇宙船の頼りなさを実感することができる。宇宙でトラブルに見舞われたときにみせたようなアームストロングの強靭な精神力は、娘を失った悲しみを誰とも共有できない(しようとしない)孤独を生む要因ともなった気がする。月というモノクロの世界がそんなアームストロングにぴったりだった。


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