運び屋 監督:クリント・イーストウッド

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☆☆☆☆☆☆☆★★★(7点)
80代後半のおじいさんが麻薬カルテルの運び屋になるという実話もの。アール(クリント・イーストウッド)は園芸家として成功していたが、インターネットの時流に乗り遅れ、事業はあえなく失敗し、自宅を差し押さえられてしまう。家族をないがしろにして仕事に打ちこんできたアールの手に残ったものは何もなかった。妻とは離婚し、娘とは十年以上口をきいてない。住むところも仕事もないアールに舞いこんできたうまい話が、ただ車を運転していればいいというものだった。おじいさんに麻薬を運ばせるという、スカウトというか声をかけた男はたまたまかもしれないが、目のつけどころがよかったのだろう。警察も80代の老人が運び屋とはなかなか思わない。アールは退役軍人で肝が据わっており、おまけに機転もきくからめきめき頭角をあらわし、運ぶ麻薬の量もどんどん増えていく。運び屋という黒い仕事だが、アールの報酬の使い方は気持ちがいい。みんなによく思われたい(特に家族)、感謝されたい、派手に遊びたいというようなわりと単純な理由でばんばんお金を使う。あっというまに使ってしまうので、運び屋をやめられないことになる。もっと堅実な性格であれば(そういう人はそもそも車を運転するだけで金がもらえるという仕事など引き受けないだろうけど)、ちがう人生の建て直しができたかもしれない。それとも、行くところまで行ったからこそ、家族との和解があり得たのだろうか。麻薬の運び屋は褒められたものではないが、仕事と家族のどちらを選ぶのか、人生の大事なものは仕事にはないのではないか、とアールは運び屋の仕事のおかげで見直すことができた。それにしても人生の終盤にジェットコースターのような波乱万丈を経験するのは、イーストウッドだからでもあるが、かっこいい生き様かもしれない。でもうらやましくはない。

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