はじまりへの旅 監督:マット・ロス

記事内に商品プロモーションを含む場合があります。

☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
森の奥深くでネイティブアメリカンのように暮らす8人家族。おそらくほぼ自給自足で完結しており、食料は狩りだけではないだろうけど、仕留めたシカなどの動物が重要な食料だということは、成人の儀式のようなもので長男ボウがシカの心臓を食べさせられることからもわかる。6人のこどもたちはみんな学校に通っておらず、親が教育のすべてを担っている。これがとんでもなくハイレベルなホームスクールで、読書はチョムスキーをはじめドストエフスキーなどの小説や物理学、宇宙科学、人類史、哲学などをこどもたちががっつり読み込んでおり、肉体的には筋トレ、ランニング、格闘技、ロッククライミングを仕込まれている。こどもだからと言って容赦はなく、自分の考えを話せるように訓練され、サバイバルでも生き残れるように本物の武器の扱いや急所の位置なども教え込まれる。なかでも長男ボウは名だたる有名大学にぜんぶ受かるほど頭がいい。性のことなど話しにくいことも、親はためらわず教える。死のことも同様で、大人が隠そうとするようなことはどれも父親ベンにとって隠す理由とならない。むしろこどもに有害だという考えだ。アメリカという国の欺瞞や罪をみないことにし、だれもがのんきに日々スーパーマーケットで買い物をくりかえすだけ。この嘘だらけの社会はこどもに有害だと父親ベンは考えている。じぶんの生活がいかに凝り固まった常識のうえに成り立っているかを考えさせられたが、と同時にベンの行き過ぎにも気がついた。ベンのこどもたちがこれから社会で生きていくには偏りすぎているからだ。8人家族と書いたが、母親はずっと不在だ。精神病を病んで入院しており、映画が始まってすぐ自殺してしまう。彼女は遺言で火葬を望んでいたのだが、両親が土葬を決めてしまい、なんとか母親の希望を叶えようとベンたち家族が葬式にむかう。というふうにして映画は本筋に入っていく。母親の死という大きな代償によって、この家族は軌道修正を成し遂げるけど、どうにか彼女を助けられなかったのかと思ってしまう。おそらくベンが一番考えたことだろうけど。

 


はじまりへの旅 [DVD]