☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
是枝裕和が初めて海外で撮った映画で、今後も海外で作るのかはわからないが、まったく違和感がなかった。カトリーヌ・ドヌーヴもジュリエット・ビノシュもイーサン・ホークも是枝映画の常連俳優のようにみえるし、逆に是枝裕和もフランスで活動してきた監督のようにもみえ、いい意味でこなれた作品と感じた。インタビューで是枝裕和が話していたが、イーサン・ホークの起用を考えたのはリチャード・リンクレイターの映画の関わり方をみて、こういう映画にも興味を持ってくれるんじゃないかと考えたからだそうで、たしかにリンクレイターと是枝の映画にはどこか通じるものがある。家族と時間の見つめ方が似てるのだろうか。「真実」の中でのイーサン・ホークの役は、大女優の母(カトリーヌ・ドヌーヴ)と仲違いしている娘(ジュリエット・ビノシュ)がアメリカで結婚した夫で、リンクレイター映画のときよりは控えめで毒もないが、妻が思う以上に妻を理解している良き夫で、この母娘の物語を支える重要な存在だ。映画の撮影の舞台裏の話を描いた映画というのはこれまでいろんな監督が撮ってきたが、いい作品が多い。それにもかかわらず、正直、個人的にはあまり好きではない設定なのだが、この映画にはこれ以上ない設定だったということが観ているうちにわかってくる。ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が出版した自伝「真実」には嘘や書かれていないことが多く、同様に彼女は実人生でも嘘をつき、本音を隠してきた。そこにはいつも女優として女として母として、演じるということが中心にあった。劇中映画で演技に四苦八苦する彼女と、実生活でぎくしゃくしていく家族や秘書から取り残されつつある彼女は、真実の表や裏を行きつ戻りつ浮遊しているようだ。本当のことは怖くもあり、嘘のほうが居心地がいいことはよくある。だが多くの場合、救いは前者からしかやってこないかもしれない。