ドリーム 監督:セオドア・メルフィ

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☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
アメリカとソ連の宇宙開発競争を元に描いた映画はこれまでもたくさん作られてきたが、「ドリーム」はそれらとは軸足が異なり、人種差別や性差別といった現代のホットなテーマを扱っている。主人公はNASAで働く黒人の女性たちで、舞台である1960年代は差別が激しく、またそれがあたりまえだった時代だ。彼女たちの活躍は歴史から消されており、やっと最近になってスポットライトがあてられるようになったようだ。職場に人種差別や性差別が持ちこまれるといかに非効率かが見ていてよくわかるのだが、当時はそれが慣例となっていてだれも疑わず、効率のことなど二の次だったみたいだ。白人と有色人種は明確に分離され、ナチスの時代のドイツのように、バスでは座る場所が分けられている。図書館でも非白人用の書架があるのだから驚きだ。この頃の差別意識というのは根強いもので、差別する側もされる側も頭が飼い慣らされている。だからなかなか変わらないのだが、NASAの宇宙特別研究本部のリーダーであるハリソン(ケヴィン・コスナー)は単独宇宙飛行を成功させてソ連を追い抜くことに命をかけており、差別する暇などない。組織で力を持っている人(ハリソン)が、けっして黒人の擁護者であるわけではないのだけど、仕事のために非効率をぶち壊してくれるようなことが起こる。数学者として天賦の才能がありながら、黒人女性というだけでただの一計算手に甘んじてきたキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)。能力を見込まれ、本部に配属になったが、非白人用のトイレがないから800メートル離れた建物まで走って用を足しにいく、コーヒーポットも自分だけ別に用意されるなど差別が続いた。ついに爆発したキャサリンがそういった不満をハリソンにぶちまけ、ハリソンがトイレについていた看板(白人用)をハンマーで破壊するシーンは見どころのひとつだと思う。ハリソンの怒りは人種差別に対する義憤ではなく、くだらない慣習で仕事の効率を下げられることに対する苛立ちだろう。理由はともあれ、ハリソンは仕事仲間には公平で偏見がないといえる。差別はこういう一部の有能な人間が、半ば無意識的に壊していくものかもしれない。もちろん、それもキャサリンたち自身のたぐいまれな強さがあってこそだ。

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