☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
「ル・アーブルの靴みがき」に続く港町3部作(難民3部作)の2本目。世界の難民問題が悪化してるからか、前作よりも重たい感じになっている。カウリスマキらしいコメディー要素は健在だけど、「ル・アーブルの靴みがき」のような、何とかなるものだという楽観的な気分はない。今作では難民のどうにも厳しい状況が描かれている。主人公のシリア難民カーリドは、正々堂々と難民申請をしても却下されてしまう。今まさに市街戦となっている最中のシリア(アレッポ)だが、難民を受け入れるほどの緊急性は認められないという、難民からすると愕然とするしかないような理由で却下となる。せっかく命からがらでいくつもの国を渡ってフィンランドまで逃げてきたのに、あっさり強制送還という決定が下る。しかも手錠をはめられて連行されるのだからほとんど犯罪者の扱いだ。何しろカウリスマキの映画だから、例によって登場人物からは感情を読み取れないが、きっと絶望感に押し潰されそうになるくらいだっただろう。救いは彼を助けようとする良心的な人たちが少なからずいたことだ。みているこちらも救われたような気分になる。人間性を疑いたくなるような連中ばかりじゃないということがわかり、純粋にほっとする。そもそもカウリスマキの世界では人情に厚い人物がここかしこにいる。映画の最初のほうでも、カーリドが難民申請をするために駅員に警察署の場所を尋ねると、正気か?と聞いてくるシーンがある。教えるけどよく考えなさいとまで言ってくれる。難民申請しても却下されて強制送還されるのがオチだとよくわかっているからだ。どんな場所でもたいていはよそ者に厳しい(程度の差こそあれ)のが人間の世界というものだが、金持ちだろうと貧乏人だろうと、弱者だろうと動物だろうと、あるいは性別が何であろうと、困っている人に手を差し伸べることができる人はかっこいいと思う。