ビフォア・ミッドナイト 監督:リチャード・リンクレイター

☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
ビフォア3部作のラストなのだけど、さらに次回作が出る可能性もあるらしい。職人的な映画シリーズのラストだけあって、脚本も演技も高められるところまで高めたという感じだ。なんと言っても会話が切れている。ビジネスの会話じゃなく、プライベートの会話がここまで鋭かったら、休む暇もなくて心身ともにくたびれ果ててしまいそうだ。才能ある3人(リンクレイター、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー)が集まって練りに練った脚本なのだから、その緊張感みたいなものが全編にわたってビリビリみなぎっている。険悪な会話劇としては、ポランスキーの「おとなのけんか」にも劣らない。あけすけすぎて何やら普遍的にも思えてくる夫婦のいざこざだが、犬も食わないと言えるようなつまらないものでは全然なかった。喧嘩であっても知性の衝突のような、深いところを突いていく姿勢が容赦ない。破滅にむかう夫婦喧嘩のなかでも、ふつうなら感情のたがが外れておしまいになるところを、たびたび踏みとどまれるジェシーとセリーヌがすごい。40をすぎて喧嘩がいちいちしゃれにならないのに、互いに情熱はもちつづけている。ジェシーにはハンクという息子がいるのだが、ハンクは前妻が育てている。セリーヌとのあいだにも双子の姉妹がいるが、離れて暮らさなければならないハンクのことは特別に気にかけており、まもなく高校生になる息子には父親が今こそ必要だと思っている。可能なら住まいをヨーロッパからアメリカに移したいと考えているジェシーのことを、セリーヌはあまりに身勝手だと感じている。終盤でこのことが引き金となって最悪の喧嘩にもつれこむのだけど、避けては通れない問題だったのだろう。持ち直そうにも、何度もブーメランのように最悪の状況に戻ってしまう。だけど最後のジェシーの力技と粘り強さはすごかったし、最終的にあんなふうに応じられるセリーヌも素敵だった。映画をみながら一言も喋ってないのに、いろんなものを発散したような、妙にすっきりした気分になれた。


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