☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10点)
フロリダ州「ウォルト・ディズニー・ワールド」の近くにある「マジック・キャッスル」という実在の安モーテルが舞台。賃貸アパートにも住めない、その日暮らしの貧困層の人たちの生活が描かれる。安モーテルとはいってもモーテルなのでそれなりにきれいにしており、壁も定期的に塗り替えているようで、いかにもアメリカのリゾート地らしい美しいホテルに見えなくもない。ただ、一泊、二泊の旅行客が使うというより、生活を営んでいる人たちが多いために生活感にあふれ、新婚の夫婦がモーテルを一目みて嫌悪したほどだ。そんなモーテルでも、日本人なら十分に楽しめる気はする。周辺はリゾート地という雰囲気で(ヤシの木もある)、ユニークな建物が多く、なにより空が圧倒的に広くてやっぱり日本とはスケールがちがう。ディズニー・ワールドであがっている花火も毎晩のように見ることができる。それはさておき、アメリカの最下層のものすごく厳しい環境の中にいる人たちにとって、ディズニー・ワールドのようなおとぎの世界は文字通りおとぎ話だ。ディズニー・ワールドのすぐそばに住んでいながら、入場できるだけの金銭的余裕はないし、それどころか安モーテルの宿泊代や食費の捻出にも困っている。母と娘で暮らすヘイリーとムーニーが、どうにも生活を再建できずに追いこまれていく現実は生々しい。ヘイリーの言葉遣いや態度をみる限り、十分な教育を受けることができずに大人になったと思われ、ろくな仕事にもつけないから社会的スキルも身につかない。そんな母親を間近にみて育つムーニーも同じ道をたどることになるかもしれず、貧困層の負のスパイラルとなっている。この映画はそんな母娘の現実を目をそらさずにたどり、同時にふたりの絆や生き生きとした暮らしをこれでもかというくらい美しくみせてくれる。カメラはローアングルが多く、ムーニーの視線から世界を見られるようになっている。こどもにとって世界はとても広くて、不幸が起こったとき、世界が一気に崩れてしまうような衝撃がある。ムーニー役のブルックリン・プリンスのすばらしい演技のおかげもあって、そのあたりがみごとに表現されていた。そして父親のような厳しさと管理人としての客との距離感をあわせもち、結果とても温かい人物となっているモーテルの管理人役を演じたウィレム・デフォーが最高の仕事をしたと思う。
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 監督:ショーン・ベイカー
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