☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
道化師夫婦アベル&ゴードンによる、ジャック・タチを彷彿とさせるフランスのどたばた喜劇。カナダの田舎から出てきたフィオナがパリで迷子になり、レストランで出会ったホームレスのドムと行方不明のおばを捜しまわるという話。パントマイムによる表現がすごく洗練されていて、ジャック・タチをさらに現代的にアップデートしたようなみごとな出来だった。おなじパントマイムでもチャップリンやキートンではなく、画全体でもってパントマイムを行うような感じが、やはりタチの後継者といえるかもしれない。それに、ウェス・アンダーソンの映画やポール・トーマス・アンダーソンの「パンチドランク・ラブ」にも通ずるような映像の美しさもあり、音楽は「ラストタンゴ・イン・パリ」のテーマ曲が印象的に挟まれ、登場人物たちが立てる音もリズムを刻んでいる。ユーモアは毒や悲しみを含んでいて単純ではないし、けっこう笑えると同時にあとをひくものがある。現代をこのように生きていけたらというような憧れも感じた。そして終盤、フィオナとドムとおばが三人ならんでみおろす、エッフェル塔からの夜のセーヌ川の眺めがすばらしかった。あの時間のあの高みからの眺めは、フィオナとドムのようなものすごく行動力がある変わった人たちでないとまず見られないものだったと思う。おばに再会できたのもあの執念があったからこそで、あそこまで突き抜けないと得られないものもきっとたくさんあるだろうという気がした。