☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
詰めが甘くて何をやっても困難が降りかかり、女性には全然モテないが人物的にはとてもやさしくていい人、という役をコミカルな演技でやらせたら、ベン・スティラーに勝るものはいないのじゃないかと思う。「LIFE!」はそんなベン・スティラーの魅力が盛りだくさんでコメディー色が強いが、映像と音楽がやたら美しいのも特徴だ。ウォルター(ベン・スティラー)が勤めているのはフォトグラフ雑誌「LIFE!」編集部で、ネガフィルムの管理という地味な仕事なのだが、そんな42歳のベテラン社員が「LIFE!」の「世界を見よう、危険でも立ち向かおう。それが人生の目的だから」というスローガンそのままに冒険に出る話でもある。リストラされかけた真面目な中堅社員の冒険を彩るのが、あの美しい映像と音楽というのがアンバランスでいい。世の中というのは、会社員生活を長年続けていれば自動的に真面目な中堅社員ができあがるものなのかもしれない。経済的、健康的な悩みをひとつふたつ抱え、体力が落ちて疲れやすくなり、だんだん頭も固くなってリフレッシュする機会も減っていく。可能性が狭まり、いい年して夢を見るのもはばかられるといった状態。ウォルターは職を失うが、一生に一度体験できるかできないかの貴重な経験と、一人のすてきな恋人を得る。紛失したフィルムを探しにグリーンランドに行くという思い切った決断ができなければ、すべて違っていたかもしれないが、ウォルターにはもともと優しさという武器があった。冒険で強くなったとはいえ、クビを宣告した上司にむかって「いやなやつにはなるな」とはなかなか言えるものじゃないと思う。
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