ダウンサイズ 監督:アレクサンダー・ペイン

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
ノルウェーの科学者が生き物を縮小する実験に成功するところから映画は始まる。世の中にはいろんな人がいるから、現実にこういう研究をしている人がいてもおかしくない(というか、むしろいてほしい気もする)。人体の縮小にも成功したことで、話は一気に身近になってくる。縮小という技術がほんとに可能になればこういうことが起こり得るのでは、という観点でわりと詳細に描かれていくのがおもしろい。政治的には環境問題や食糧問題の解決に結びつくから、小さくなった人たちには税の優遇措置などいろんな特典がつく。ゴミも減るし、少ない資産でもやっていけるから、実質ものすごい資産に膨れあがり、働かずに裕福な生活が送れる。しかし経済的には消費が激減するので世の中は不景気となっていく。主人公ポール(マット・デイモン)は40代でやっと奨学金を払い終え、作業療法士の給料では望むような家は買えず、頭金が少なすぎて住宅ローンも組めない。要するに、今後の人生で大きな発展が望めない人たちに、宝くじを当てたかのような劇的な変化を体験できるチャンスが降ってきたといったところだろう。一度ダウンサイジングしたら元の体には二度と戻れないという点がかなり不安だが、現実にこんな話が降ってきたら、だれもが別の人生を夢想するんじゃないかと思う(実際にやるかどうかは別として)。ダウンサイジングした人たちが住む都市は、べつに小さな人たちがせっせと作ったわけじゃなく、元のサイズの人間たちの協力によって作られているから安心感はある。どんなに高価な物質でも、小さいので安価に仕入れることができるだろうから、きっと頑丈なのだろうけど、大きな自然災害にはとても耐えられない気がする。なにせ小さいから、土地ごと持っていかれそうな。映画では南極のメタンガスの発生で人類滅亡が迫り(冒頭の科学者が主張するには)、その日にそなえて作っていた広大な地下シェルターに小さな人たちが避難していくシーンが描かれる。ポールの隣人ドゥシャン(クリストフ・ヴァルツ)の言うように、この連中はカルトで、ひょっとしたら地下シェルターで内ゲバが起こって殺し合うようなことになるかもしれない。なにしろ太陽は見れないし、唯一の出口は爆発で塞いでしまったから。その爆発も「ポンッ」という小さな花火みたいなもので、スケールが大きいのか小さいのか、笑えてしまう。世界の拡大路線が曲がり角に来てるというのは確かだと思う。人間そのものをダウンサイズするというのはなかなか秀逸なアイディアだと思う(欠陥がぼろぼろ出てきそうではあるけど)。

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