☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
タイトルに違和感があるが、中身はいつものクオリティーの是枝映画で、家族のままならないあれこれをこの作品でも描いている。親の離婚によって小学生の兄弟が離れ離れに暮らしており、福岡と鹿児島はおなじ九州でも北の端っこと南の端っこだからけっこう遠い。新幹線なら2時間ちょっとで、車でも高速道路を使えば4時間くらいで行けるとはいえ、気軽に行き来できる距離じゃない。主役の兄弟(前田航基、前田旺志郎)は何しろ小学生だから交通費も大金だし、両親は喧嘩別れのようなものだから行き来する理由がない。この仲のいい兄弟は別の土地でちがう人間関係のなかで、ちょくちょく電話で連絡を取りあいながら、ふたたび家族がひとつになるのを夢見るしかないというのが現状だ。その夢にしても、なにがなんでも家族を元に戻したい兄と、喧嘩ばかりの家庭に戻るよりはこのままのほうがいいと考える弟とで明らかな食い違いがある。兄の「なにがなんでも」の思いが、子供たちだけの旅のなかで変質していくところが切なくもあるし、明るい面でもある。ところで、子供たちは熊本の知らない家に泊まらせてもらうことになるのだが、そこのシーンはどれもなんとも言えないよさがあった。現代の子供たちが小津映画に迷いこんだような。それから、ずっと福岡に住んできた身としては、ミーハーな意味でもうれしい場面は多かった。愛宕神社からの眺めは定番といえば定番だが、その近所に住んでいたことがあるのでよけいに。
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