海よりもまだ深く 監督:是枝裕和

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
ドラマ「ゴーイング マイ ホーム(以下、ゴマホ)」の大ファンである身からすると、阿部寛主演の是枝作品はうれしい。しかも似たようなキャラ設定で、ゴマホのときもダメ人間だったが、今回は経済的に落ちぶれ、ちょっとクズなところもあり、どうしようもない男としては格段にグレードアップしている。小説家崩れでリサーチと称して探偵事務所に勤め、ギャンブル中毒でろくに生活資金もなく、別れた妻子への養育費も工面できない。果ては高校生をゆすったりもするのだが、阿部寛が演じると憎めない。こういう人が身内だと間違いなく苦労しそうだが、みている分にはおもしろい。多くの人に愛されそうなキャラでもあると思うのだが、この人と結婚して出産して離婚した響子(真木よう子)にとっては幻滅の連続だったかもしれない。息子の真悟(吉澤太陽)はそんな父親でも大好きにちがいなく、台風のおかげで偶然はじまった一夜限りの家族団らんは心温まるものであると同時に切なくもある。親の都合でばらばらになったのだから、あきらめたような気持ちで受け身になってもおかしくない。母の恋人は新しい父親になろうとしている。こういうことは止められっこないと思うだろう。台風の日、真悟が祖母の淑子(樹木希林)に、宝くじが当たったらまたみんなでいっしょに暮らしたいと話すシーンがあり、それは本心からの言葉には違いないが、裏を返せば宝くじでもあたらなければ家族が元に戻ることはないと思っているともいえる。この映画の脚本は「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」という一文から始まるという。これはゴマホにも通じるテーマで、人類共通のテーマとも言えそうだ。大人がそのことと向き合うのは酷である反面、じぶんを知る格好の材料にもなる気がする。

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