桜桃の味 監督:アッバス・キアロスタミ

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☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
第50回カンヌ国際映画祭(1997)のパルム・ドール受賞。キアロスタミは「オリーブの林をぬけて」以来、みるのは2作目。自殺を決意した男が自殺の手伝いをしてくれる人を探して、車でひたすら走りまわるという話。カメラは基本的にずっと運転する男にはりつき、あるいは助手席に座った自殺手伝いの候補に向けられる。そしてロングショットで車の行方を追う。映画のあいだずっと車内で揺られていたような気がしたほどだ。車を運転するシーンを映画でみるのはかなり好きなほうなので、それがまず心地よかった。ロードムービーというジャンルにはならないが、これだけ車のシーンがあるとそう呼んでもいい気がする。同じような場所をぐるぐる回ってるだけだが、初めて会った人との何でもない会話や、車のスピードで移り変わる景色など、旅を思わせる。自殺を手伝ってくれる人を探すという奇妙な旅だ。最後のほうに、ステップ地帯の砂だらけの道を走るなか、自然博物館に勤めている老人の話がえんえん続くのだが、妙に感動的だった。それは、男が運転する車に乗せられたような感じで、ずっと彼の暗い顔や言葉を見聞きし、さらに砂ばかりの茶色い世界を見続けてきたあとに突然あらわれた、生命あふれる話だったためかもしれない。不毛の地と男の自殺願望をかき消すような老人の熱弁だった。老人もまたかつて自殺を試みた人だったからだろう。自殺するまえに老人の考えを覆したのは果物の味だった。四季の果物という神様が与えてくれた恵みについて語り、「桜桃の味を忘れてしまうのか?」と。ラストシーンでは季節が変わり、砂だらけだった茶色い土地に緑が生い茂っていた。と書くと美しい終わり方のように聞こえるが、そのシーンは監督や撮影クルーの撮影風景で、急に舞台裏があらわれて映画が終わるというものだ。「これは映画だよ」と最後にわざわざ言ってみせる、余韻にひたらせない終わり方だ。最後の最後にゴダールが顔を覗かせたような。

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