サンドラの週末 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
ダルデンヌ兄弟の映画は「イゴールの約束」から「少年と自転車」までは全部みていた。だからけっこうひさしぶりのダルデンヌ作品で、期待と不安を覚えながらみた。「不安」というのは、ダルデンヌの映画はとても痛いからだ。みているこちらも苦しくなるような痛みを扱うことが多い。サンドラ(マリオン・コティヤール)は夫マニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)とこども二人の4人家族で、マイホームらしき一軒家に暮らしている。おしゃれな家で、インテリアも美しく、家族がとても家を大事にしていることがわかる。赤いタイルが印象的なキッチンで、サンドラがこどものおやつにパイを焼いたり、マニュが昼食にピザを焼いたりしている。こどもたちも愛らしくて、一見すると幸せそうな家庭なのだが、じつはかなりしゃれにならない状況だった。サンドラは体調を崩して会社を休職していたのだが(メンタルの不調らしい)、同僚から電話がかかってきて今まさに自分が解雇されようとしていることを知る。社員にボーナスを支給するためには一人解雇しなければならないからだという。夫のマニュはレストランで働いているが、サンドラの稼ぎがなくなると月々の支払いもままならない。だから夫マニュに促され、仲のいい同僚の力を借りて社長に直接会い、サンドラの解雇については週明けの月曜に再投票で決めることにしてもらう。もしサンドラが残ればボーナスはなし、ボーナスをとればサンドラはクビ、という条件で、同僚16人のうち過半数がサンドラを選べば解雇は撤回される。だからこの週末に、サンドラは同僚たちを説得してまわるという、かなり冷や汗ものの展開だ。ふつうならそんな会社辞めてしまえばいいところだが、映画の舞台はおそらくフランスで(架空のヨーロッパの町かもしれない)、失業率の高さは日本よりずっと高い。働き盛りの若者ですら仕事探しに苦労することがある。解雇されたら家を手放すしかないという覚悟で、サンドラは同僚たちを訪ね歩くのだ。失業したら暮らしていけないからボーナスをあきらめてくれないかという説得を、病みあがりの女性がやらないといけない。この週末の2日間は、サンドラにとって地獄のようなものだったに違いないが、夫や同僚たちに思わぬ側面をみせられ、きっと同僚たち以上に、ボーナスと仲間の解雇のどちらを選ぶかということについて深く考えただろう。最後にみせたサンドラの判断をみても、この2日間はすごく意味のあるものだったのではないかと思う。


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