☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞(2015年)のポーランド映画。まだデビュー間もない監督のようだが、いきなり大きな賞をもらって今後を期待されているとのこと。脚本もシュモフスカ監督がつとめ、どこか日本のホラー映画のような、独自のシュールな世界観を醸し出している。ヨーロッパの映画で、死者をこのように扱うのはめずらしいかもしれない。冒頭は主人公の検死官ヤヌシュが、首つり自殺のあった現場の森にむかうところから始まるのだが、遺体が地面におろされると、その遺体が立ちあがって歩き去ってしまう。死者が生者に混じってる描写というのはめずらしくはないけど、ユーモアがあり(死んだ奥さんが裸で踊ってたりする、まあこれは夢とか夢想なんかの描写かもしれないが)、降臨術がセラピーの手段のひとつとして取り扱われるなどけっこう変わっている。でもよく考えてみれば、人の精神の病には死者が関わっているというのは、なんだかわかる気もする。大事な人(やペット)を失って精神的にバランスを崩すという直接的な影響だけでなく、死というものは愛おしいものからぞっとするものまでを後に遺し、もっと広範に作用を及ぼすものかもしれない。そこを解明するのは宗教かもしれないし、科学かもしれないが、現時点では説明がつかないことが多い。けっきょく頼りにしていいのは人の心で、ときどき奇跡的な癒しが起こるのも心がもたらす偶然の気分の変化だったりする。そういうことを考えさせてくれた映画だった。