☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
娘をレイプされて焼き殺された母親ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、7ヶ月経っても犯人が捕まらないどころか手がかりさえ見つからないことに怒り、殺害現場に立っている3つの広告版(スリー・ビルボード)に警察を批判するようなメッセージを出す。ミズーリ州は人種差別がいまだに残る田舎町らしいが、映画ではミズーリ州の架空の町が舞台となっており、一昔前のアメリカをみるような古臭い警察官たちが登場する。だから善と悪がはっきりした構図で話が進むものと思っていたら、まるで違っていた。警察署長のビル・ウィロビー(ウディ・ハレルソン)はまれにみる人格者だということがだんだんわかってくるし、ミルドレッドは頑固で攻撃的で過激な行動もいとわないところがある(フランシス・マクドーマンドが演じるとかっこいいけど)。圧倒的に強い人物という感じのミルドレッドも感情のぶれがたまに見られ、少なくとも観客側からは彼女の弱みがわかる。そして何よりこの映画の意外性そのものでもあるような人物ジェイソン・ディクソン巡査(サム・ロックウェル)が構図というものをこれでもかというくらいかき回す。観ている側からしたら憎しみの対象にしかならないような問題人物が、予想外の行動でそんな評価をひっくり返してしまう。人間や人間模様のわからなさというシンプルな真理をみごとに突いた作品だと思った。