☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
本好きや本屋の話はやはり気になる。僕自身が本好きだし、図書館で働いているし、それに高校三年生のときまで両親が本屋を経営していた。こども時代は本屋が遊び場のひとつだった。当時は町に同じようなちいさな本屋がけっこうあったのだが、大資本の書店が進出してくるとあっというまに淘汰され、次々に消えていった。大きな書店と同じような品揃えをしていては、生き残れるはずもなかった。本屋の経営の厳しさは母からうるさいほど聞かされてきたが、「マイ・ブックショップ」の主人公フローレンス(エミリー・モーティマー)の置かれた状況はまた別種の厳しさだった。保守的なちいさな町で、ひとりの女性が書店を起ちあげることを町の人が気に入らず、あらゆる方面から陰湿な嫌がらせを受けるというものだ。町の富裕層、貧困層、ロンドンで働く急進的な人たち、弁護士、銀行員、それから近所の善良そうな夫人たちまでが、ぜんぶ彼女の敵だった。フローレンスの助手の少女と、隠遁生活を送る老紳士の二人だけが味方というありさまだ。しかし敵が卑劣であればあるほど、フローレンスと少女と老紳士の三人のふるまいがより美しくみえてくる。勝つことより大切なものがあることをとてもわかりやすく教えてくれる映画かもしれない。