☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
1986年から1991年のあいだに韓国で実際に起きた連続殺人事件を基にした映画で、2003年の公開当時は有名な未解決事件として知られていたが、2019年に犯人が特定された。10人の被害者はすべて女性で、性的暴行のあとにストッキングなどの被害者の私物を使って殺害し、遺体を辱めるような残忍なやり方で遺棄されていたという。2019年に特定された犯人は義妹の強姦殺人の罪で刑務所に服役していた50代の男だった。本来なら犯人特定にこんなに年月のかかるような事件ではなかったのではないかと思う。それくらい当時の韓国の警察の捜査はずさんでめちゃくちゃだったようだ。そのあたりが映画では批判的にもおもしろおかしくも描かれていて、ユーモアたっぷりにシリアスな状況を描くのがポン・ジュノはうまい。事件を追う刑事たちも容疑者たちもユニークで、キャラが濃くて生き生きしている。「殺人の追憶」では映画後半にもっとも犯人っぽい男が捜査線上にあらわれる。犯人っぽいと言っても映画的にそう言えるということで、見た目はごく普通のやさしそうな青年だ。気になるのは、この青年のモデルがいたのかどうかという点で、ポン・ジュノはこの映画を撮るまえに徹底的に犯人のプロファイリングを行ったらしいから、実在のモデルがいた可能性はある。「ゾディアック」のデヴィッド・フィンチャーも未解決の連続殺人事件を映画化した際、プロファイリングを行い、こちらは「殺人の追憶」以上に迷いなく犯人を示してみせていた。ただどちらの事件にしても、状況証拠からは間違いないと思えても、DNA鑑定などの科学的な証拠は得られず犯人逮捕に至らなかったという展開だ(「殺人の追憶」の事件の真犯人は2019年の最新のDNA鑑定により特定)。犯人が長年捕まっていない未解決事件というのは薄気味悪く、猟奇的な犯人がもしかしたらその辺で普通に生活してるかもしれないという怖さがある。ラストシーンでパク刑事(ソン・ガンホ)がカメラを見据えるのだが、その目線は映画を超えて現実世界にまで向けられたものだ。そのどのようにも受け取れそうな豊かな表情の中から確実に読み取れるのは、怒りかもしれない。
殺人の追憶 監督:ポン・ジュノ
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