ジョーカー 監督:トッド・フィリップス

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)というコメディアン志望の男が、バットマンのヴィランであるジョーカーになるまでを描いた話。ホアキン・フェニックスは狂った人物を演じるのがうまいので、「ジョーカー」も観るまえから適役だと思った。「ダークナイト」でヒース・レジャーがジョーカーを演じたのはいい意味ですごく意外で、しかもぶっ飛んでいたのが驚きだったが、今作はそういう意味における新鮮さみたいなものはなかった。だがこの「ジョーカー」という映画はヒーロー映画から逸脱し、社会問題と人間の狂気に真正面からとりくんだ、もはや完全に大人向けの硬派な映画という意味で新しい。ジョーカーはこれまでのバットマン映画で常に人を食ったようなキャラクターとして描かれてきた。この映画では人間くさいジョーカーが描かれるのだが、ラストシーンをみるとよくわからなくなる。あの施設は精神障害から凶悪犯罪を犯した犯罪者を収容しているような場所だろうか? それとも単なる精神病院だろうか? そうだとすると、すべてはアーサー・フレックの妄想なのか。このラストシーン、あえて濁しているのは間違いない。映画の中盤でもアーサーに妄想癖があることが判明するし、アーサーの母親も妄想の病を患っていた。映画的にあまり喜ばしくない妄想オチである可能性は十分にあると思う。それでもこの映画の強烈な印象は変わらず、むしろ解釈の幅がひろがり、謎の多いジョーカーというキャラにふさわしい構造となっているのがおもしろい。それにしてもアーサー・フレックは不幸な男だった。孤児で、ひきとられた先で虐待されている。もちろん同じ境遇の人がみんなアーサーのようになるわけではないが、彼が狂っていった過程は説得力があり、共感さえさせるものがあった。あのジョーカーの独特の笑いは、あれは単なるピエロ風の悪役に感じを出すためにとってつけたものではなく、脳神経の病気で止めることのできないものだった(原作にはない今作のみのアイディアかもしれないが)。だからこの映画でアーサーは様々な場面で笑う。それも大笑いだが、とても悲愴な笑いだ。

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