新聞記者 監督:藤井道人

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
日本のメディアというと独立性を欠いたようなネガテイブなイメージが強いけど、この映画ではむしろ内閣情報調査室の闇を掘り下げている。フィクションだし、制作の段階で調査しても内閣情報調査室だけは何もわからなかったらしいから、この映画に描かれたことがほんとなのかどうかはわからない。でも新聞記事を誤報にしたりSNSで政府にとって都合の悪い人物を貶めたり、内調の職員たちがパソコンの前で黙々と情報操作を行なっているというのはすごくリアルだ。実際はあんな海外の情報機関にでもありそうな垢抜けた事務室ではないだろうが、ネトウヨを量産してるのがこの場所というのは説得力がある。政府の内部にそういうところがあると考えないと、ネトウヨの行動原理が理解できないことが多すぎる。こういう時代、こういう政府がSNSの影響力を使わないわけがないとも思える。内調はもともと日本版CIAの構想があったというから、そういう欲求は組織的に秘められているかもしれない。なにしろ防衛省の情報本部や公安警察が情報収集の任務にあたっているのだから。この映画に描かれたとおり、場合によっては一般人も監視されている可能性は高い。この映画がすごいのは森友学園や伊藤詩織さんの事件をあきらかにそれとわかるように取りあげ、エンタメとして多くの人が楽しめるようなドラマに仕上げているところだ。欧米が得意とする分野で、日本ではまず作られなかった分野でもある。森達也のドキュメンタリーなどはあるけど、こういう有名な俳優を起用して作りあげたものは他にみたことがない。それにしても高橋和也演じた神崎の自死はつらいものがある。彼をそこまで追いこむ冷徹さとえげつなさ、死人に鞭打つことに何も感じない非人間的な感じ。杉原(松坂桃李)はこんな闇をみせられ、守っていかないといけない妻子を抱え、どのように内面を立て直すのだろう。良心的な人間が続けていくには酷な仕事だし、それともああやって優秀で良心的な人たちまでが飼い慣らされていくのだろうか。

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