ホテル・ムンバイ 監督:アンソニー・マラス

☆☆☆☆☆☆☆★★★(7点)
2008年に起きたムンバイ同時多発テロの実話をもとに作られた作品。ムンバイはインド西海岸の都市で、アラビア海に面している。アラビア海のむこうのパキスタンから来たと思われる船で、テロリスト集団が上陸するところから映画ははじまる。イスラーム教徒らしい若者たちが暗い顔つきのままろくに喋らず、複数のタクシーに分かれて散らばっていく。話すときはたいてい無線でその場にいない人間と話している。映画をみている側からすると、いかにも何か不穏なものを感じさせる若者たちだが、彼らを注視するものはだれもいない。都市に入れば溶けこんでしまうのだろう。そして駅で唐突に殺戮が始まり、あっという間に百人ほどが犠牲になってしまう。自分たちだけ完全武装して不意打ちを食らわせ、無差別に殺してまわるのは卑劣極まりないが、導師という立場で安全な遠方からテロの指示を出している人間はさらに始末が悪い。異教徒を殺しても罪にならないと吹聴し、実行部隊が危険にさらされると、立派に死ねと命じる。映画ではテロリストの若者たちは冷酷な人間として描かれてはいるが、彼らの感情の動きも画面におさめており、どうしようもなく狂った連中ではあるが、導師にいいように使われ、ゴミのように使い捨てにされていることがほの見える。悪賢い指導部からすると、こういう単純な狂信者たちは使いやすいだろう。金銭も大きな動機になっているようで、ジハードによって家族に大金が支払われる約束になっているらしい。このテロで、実際には500人以上が巻き込まれたにもかかわらず、犠牲者はわずか32人だったという。しかも半数はホテルの従業員で、彼らの勇敢な行動によってこれだけの犠牲者数で済んだと言われている。インド有数の五つ星ホテルだったから、というだけでもない気がする。仕事というのは不思議なもので、普段だとまずみせないような、果敢な行動を人にとらせることがある。仕事中でなければ、他人のために命を捧げることもなかったかもしれない、というような人はいたと思う。仕事というのはうまくいけば、その人の最良の資質を引き出してくれるのかもしれない。


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