アド・アストラ 監督:ジェームズ・グレイ

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☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
観終わったあとにわかった情報だが、この映画は「地獄の黙示録」から大きな影響を受けたらしい。知ってしまえばたしかにその影響の濃さがよくわかる。人が立ち入らない未開の奥地で、何やら狂気に触れてしまったと思われる伝説的な人物を暗殺することが目的の旅。「アド・アストラ」における伝説的な人物は、主人公ロイ(ブラッド・ピット)の父親だ。ロイの父親クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)は16年前に海王星のあたりで事故死したはずだったが、軍が英雄クリフォードの凶行を隠していただけで、生きている可能性があるのだった。ロイは優秀な飛行士で、感情の抑制に長け、常に冷静に行動することができる反面、人間味に欠け、他人とうまく付き合えないところがある。ロイがこれまでの人生で自身を抑圧してきた原因には父親を失ったことが大きかったと思われ、父親を海王星まで探しに行く旅はロイが抑圧から解き放たれる過程でもある。思索的で硬派なSF映画なので、冒険映画という感じではないが、アクション面でも見どころはある。月面で国籍不明の集団に襲撃されるシーンや、探査していた宇宙船で実験動物のサルに襲われるシーンは急な展開できょっとする。そんな場面でもロイはあまり動じず、ぎりぎりではあるがわりとスマートに危機を脱していくので、これはこういう映画なのだとみているほうもわかってくる。要するに、ぜったいに目的地にたどり着く話で、重要なのはその過程で揺さぶられるロイの心の動きだ。それをブラッド・ピットが少ない表情で演じる。それにしても、人の心のわかりにくさには宇宙がぴったりかもしれない。「地獄の黙示録」では人間の業としてベトナム戦争が舞台となったが、それがついに宇宙になった。人間は宇宙に出て行ってもあまり変わらないようだ。


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