☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
冒頭からヌーヴェルヴァーグの空気が濃厚で、最近撮られた映画とは思えないほどだった。撮影監督がレナート・ベルタというロメールやオリヴェイラやルイ・マルなどの作品に携わってきた人で、その影響も大きい。一見意味不明であきらかに説明不足なところも、それらしい映画という感じを受けた。カモメが空から降ってきたり、客人がいきなり気絶したり、愛した男がじつは思想犯だったり、そういう衝撃的なことも主人公の反応は薄く、映画的にもあっさり受け流され、話は淡々と進む。フランス人はもっと自己主張が強くてたくさん喋るようなイメージだが、この映画に出てくる人たちは寡黙でセリフは少ない。まさに静かなふたりなのだが、邦題はストレートすぎて何も感慨をもたらさない(原題は「奇妙な鳥」)。風変わりな老人と、世間から浮いた感じのする若い女性の恋愛が、ものすごく淡白に描かれていく。淡白すぎてもはや恋愛じゃないような雰囲気になっている。男と女の年齢差のせいもあるだろうけど、監督にそういう美学があるのかもしれない。それでもふたりの対話の言葉は強くて熱い。記憶が不確かだけど、年老いた書店主ジョルジュが人生に後悔してるというようなことを言っていたと思う。思想犯として29年の逃亡生活を送っているから、重い言葉だ。マヴィに出会うまで本気で恋愛したこともないようだから、まったくもって重い。年齢差がなければ、ふたりの関係はうまくいくと何度もジョルジュは言う。この重さを理解しようとしなければ、最後にみせたジョルジュの一見独りよがりな哀しみは伝わってこないかもしれない。