☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
年間322日が出張、家はあるにはあるけどビジネスホテルみたいな殺風景な部屋、結婚してない、恋人はその場かぎり、家族とは疎遠、リストラの宣告を代行する仕事、1000万マイル貯めるのが夢、という主人公のライアン(ジョージ・クルーニー)は、人間関係も持ち物もぎりぎりまでなくしてしまって身軽になったほうがいいという哲学の持ち主だ。ライアンの成熟しきった効率重視の考えは、キャリーバッグの詰め方や空港の立ち居振る舞いによくあらわれる。その無駄のなさは、みていて気持ちいいくらいだ。身軽な人はスマートにみえる。逆に人間関係や住まいや所有物にがんじがらめの人はみるからに大変そう。前者は幸せそうにみえるし、ライアン自身そう確信して揺らぐこともなかったにちがいない。そうでないとライアンのような生活は続けられない。映画はアレックスという自分と似た考えをもつ女性と、ナタリーという生意気で有能な若手社員と出会うことで揺らいでいくライアンを描く。ただ、ライアンは大いに揺れ動くけど、単純に哲学をべつの何かととっかえるようなことはしなかった。なぜならたぶん、ライアンの生き方も間違いではないからだ。語弊があるかもしれないけど、ライアンの境地は、ある意味で宗教的でもある。修行僧のような。