☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
1999年のポランスキーの映画「ナインスゲート」に雰囲気がよく似ている。男が事件や陰謀に巻きこまれ、謎解きをしていく展開がいっしょで、音楽も共通するものがある。「ナインスゲート」はオカルト、「ゴーストライター」は政治がストーリーのけん引力となっている。ゴーストライター役のユアン・マクレガーは飄々としていて表情に乏しく、今回は役柄的にもぶっきらぼうなので、そこがいい味になっていた。主体性がなくて流れに任せているうちに深みにはまってしまうのだが、フリーライターの厚かましさなのか、それとも単に鈍いだけなのか、どこでも図太く立ちまわる。そして危険なほうへ危険なほうへと突き進んでいく。謎に引きつけられ、だんだんそれが解けていくと、ますます気になって危険を顧みなくなってしまったのかもしれない。自分の身に危険が及ぶようになってから、ようやくこれはやばいとなる。だから最後の最後になぜ相手を挑発するようなことをしてしまったのか(もっと賢い手段があったはず)と疑問に思うが、映画の演出的には、パーティーでゴーストライターから黒幕への手紙が人の手から手へ渡っていくあのシーンはすばらしかった。その直後の結末の見せ方もみごとだし、あそこで流れるテーマ音楽がまたいい。極上のサスペンス映画という決まり文句がはまりそうな映画だが、個人的にはゴーストライター(劇中で名前が出てこない)の非主体的な行動を眺めているのが一番好きかもしれない。だから謎がわかってしまっても、何度でも繰り返しみられる映画だ。