☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
リチャード・リンクレイターのビフォア3部作の1作目。第45回ベルリン国際映画祭の銀熊賞 (監督賞)受賞作。このあいだ誤って2作目の「ビフォア・サンセット」を先にみてしまっていたので、ジェシーとセリーヌのその後を知った上での鑑賞。どうしても2作目のことが頭に散らつき、やっぱり1作目から順にみておくべきだったと思ったが、それでも十分に楽しめた。このころイーサン・ホークとジュリー・デルピーは25歳くらいで、ふたりともかなり美しい。冒頭の電車のシーンで、夫婦喧嘩をする中年の男女などいろんな乗客が出てくるのだけど、ジェシー(イーサン・ホーク)とセリーヌ(ジュリー・デルピー)は場違いに美しくて、美しい人たちというのは強力に引きつけ合うものだとでもいうように、ふたりは自然と仲良くなっていく。初対面同士が電車で言葉を交わすようになっても、ふつうは一方が目的の駅に着いてしまえばそこでお別れなのだが、このふたりの場合は運命的だったようで、セリーヌはジェシーに誘われて特に用もなかったウィーンで降りてしまう。アメリカ人のジェシーは翌朝の飛行機で帰ることになっているので、フランス人のセリーヌとはたった一夜の恋となってしまいそうだ。ありそうでめったに起こり得ないこういうシチュエーションは映画にするにはいかにもロマンチックすぎるけど、「ビフォア・サンライズ」は未来から語るのでもなく時間を飛ばし飛ばしに扱うのでもなく、現在のふたりのやりとりに焦点を当てて、ひたすら会話中心に進めていく。ウィーンのように古い建物が大事にされている街は古びないし、練りに練られたジェシーとセリーヌの会話劇も古びない。ただ、劇中でも語られるように人間はかならず終わるものだし、霊魂もないと信じるなら死後に残るものは何もない。だからたとえば今のこの瞬間が美しいのだといった内容のことをジェシーは言う。映画は最後にふたりが通った場所を、朝を迎えて夜とは違う表情をみせる街なみを、ゆっくり順番に映していく。そしてひとり電車で揺られるセリーヌの微笑み。2作目の「ビフォア・サンセット」と同じく、余韻が残る終わり方がうまい。