この世界の片隅に 監督:片渕須直

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)

絵のタッチと冒頭から流れるコトリンゴの歌声からほんわかした映画かと勘違いしそうだが、「悲しくて悲しくて、とてもやりきれない」という歌詞がそうではないことを予感させる。ちょっと似たところのある「火垂るの墓」のようには写実的ではないぶん、空襲や焼夷弾、そして原爆などがまさに異物としての迫力があり、いかに戦争が普通の日常を破壊しつくしてしまうかを描くのに効果的だったと思う。ただただ悲しい映画かというと全然そうではなくて、それは登場人物たちの性格のためでもあるし、家計のやりくりとか生活の知恵とか日々の暮らしの細かな描写とか、ごく普通の生活のほうから戦争を描いているためでもある。しかし玉音放送を聞いたあとのすずや径子の反応から、戦争に勝つと信じていたこと、敗北となれば犠牲者たちが無駄死にになると感じたこと、一億玉砕を覚悟していたことがわかり、当然なのかもしれないが、戦時の普通でない意識が普通の人たちにまで浸透していたことに、よけいに悲しくなった。

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