☆☆☆☆☆☆☆☆★★(8点)
どうやって撮影したのか気になるシーンのオンパレードで、この監督の映像の文体はリアルだ。題材が非日常だからリアルなほうが当然いいのだが、それにしても目をひくリアルさだった。主人公のセオ(クライヴ・オーウェン)が爆破テロや襲撃や銃撃戦に巻きこまれていくさまが、長回しの効果もあって、正常から異常へと切れ目なく表現されている。「ゼロ・グラビティ」でもそうだったが、いちど異常な事態に入ると、ジェットコースター的にカオス状態に陥っていく。舞台のロンドンはディストピアの社会で、暴力的な惨禍がいつ降りかかってきてもおかしくないために、観てるほうはこのカオス状態から目を離せない。ところでセオは虚無的な人物で、どこかやけっぱちになっているようなところがある。それは子供を亡くして妻と別れたことや、18年間も人類に子供が生まれず人類全体に絶望的な気分が広がっていることから来ているのだろう。セオは数多くの危機をぎりぎりで生き延びていくが、最初のほうは自分の身の危険すらどこか他人事という感じが出ていた。だが不法移民のキーが妊娠していることを知り、安全な場所に送り届けるという任務に巻きこまれてからは人が変わっていく。そしてキーの出産を手伝い、新しい命が生まれた瞬間をみたことが決定的となっただろう。セオは昔の闘士に戻っていたのだと思う。それから父親にも。かつての妻ジュリアン(ジュリアン・ムーア)が生きていたら、セオのことをどう思っただろうか。
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