☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
この映画では終始主人公の弁護士重盛(福山雅治)と同じように、観客も犯人の三隅(役所広司)にふりまわされることになり、断定的なことは最後まで何も言えない。それによって法廷では真実は求められないということが印象深く描かれている。裁判官、検察官、弁護士はそれぞれの役割があり、それぞれの仕事をこなしていく。検察官と弁護士は刑を重くできるか軽くできるかを争い、裁判官は件数をこなさないといけない。事件の真実にはあまり関心がなく、いかに有利に進めていくかに腐心し、一般の人からみれば事件に冷淡な人たちという印象を与えるかもしれない。だがそれも医者や看護師の病気やケガや死に対する態度と同じで、仕事上しかたのない面であるとも言える。重盛(福山雅治)は腕のいい弁護士で経験も豊富にちがいなく、まさに患者に飽いた熟練の医者のようだ。端から真実に興味がないから、どんな負け戦でもこちらの都合のいい負け方をみつけようとする(それが一般的な弁護士の考えることかもしれないが)。だが今回の依頼人は普通じゃなかった。三隅(役所広司)は接見のたびに別人のようになり、話すこともころころ変わった。重盛の内面を透視するような、不気味なところもあった。重盛は何がなんだかわからなくなっていき、いつのまにか真実を欲するようになる。けっきょく重盛は裁判で惨敗するが、無駄な負けではなかったと思う。三隅は「空っぽの器」かもしれないが、重盛の思考レベルとは異質で理解の及ばない相手だった。おそらく重盛は裁判の不合理さにこれほど打ちのめされたことはなかったのではないか。
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