スノーピアサー 監督:ポン・ジュノ

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☆☆☆☆☆☆☆★★★(7点)
2013年の映画で、当時ポン・ジュノがハリウッドのキャストで映画を作ったと知り、それがアクション映画だったというのが意外なような気もしたし、納得もしたのを覚えている。「グエムル-漢江の怪物-」のようなモンスター映画を撮る監督でもあるし、その延長線上にあるタイプの映画と思って「スノーピアサー」をみると、ぜんぜん違う。話が違うのはあたりまえだが、ポン・ジュノらしいユーモアは控えめで、画面からはちきれんばかりの生の横溢といったようなものはあまり感じられなかった。そういうものは地元で撮ると自然と出てくるもので、ハリウッドのような洗練されたシステムの中では出てきにくいものなのかもしれない。後者は後者で好きなのだけど、ポン・ジュノに期待するものとはちょっと違ったというような感じだ。それでも完成度の高い映画には違いなく、印象に残るシーンも多い。個人的にはティルダ・スウィントンのずいぶん思いきった役作りが好きだ。美男子の雰囲気がある彼女が度の強いメガネと出っ歯の入れ歯をしているだけでもインパクトがあり、そのうえアクの強い変人だ。政治家やPTAにいそうな人物のカリカチュアといったふうで、ティルダ・スウィントンがこんなに薄っぺらな人間を演じたのは初めてではないかと思う。映画は全編ほぼ列車の中で話が進む。地球温暖化対策として世界中に散布した化学薬品によって氷河期を招いてしまい、一年かけて世界を一周する列車に乗っている乗客たちだけが世界の生き残りだ。止まったら凍っておしまいなのだろう。永久に動き続けることができる特殊なエンジンによって列車は走り、それを開発したウィルフォード社が列車を牛耳っている。後方車両には貧困層、前方車両には富裕層が暮らしており、貧困層が起こした革命の顛末が描かれる。列車の治安を守っているのは銃を装備した軍人なのだが、雰囲気はナチスの親衛隊で、後方車両は強制収容所のようだ。食事は少量を配給され、反抗した者には残酷な罰が下るところなど、収容所そのものだ。ポン・ジュノが描いたのは弱者が強者を打ち負かすことだけではなかった。乗客たちにはそこが世界のすべてだと思えた列車も、しょせん世界のほんの一部にすぎないということだ。革命の最終目標は先頭車両のウィルフォード本人。だがそこにとらわれなければ、生きていける世界が外にも広がっていることをミンス(ソン・ガンホ)のように発見できるかもしれない。

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