ボーダーライン 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9点)
脚本が「ウインド・リバー」監督のテイラー・シェリダン。この映画でもアメリカの闇の深いところを描いている。メキシコの麻薬カルテルの捜査なのだが、アメリカにとってまったく対岸の火事なんかではないので、CIAやFBIだけでなく政府の上層部も動いている。麻薬王のファウストを潰す作戦は異例の特例措置で、カルテルの幹部を護送する車は道路を優先的に使うことが許され、武装した警官の護衛もものものしい。市民の前でカルテル側の部隊を射殺しても法に問われない。メキシコといえば治安が最悪のイメージがあるが、映画の中のシーンはどれも予想以上の地獄だった。法秩序が甘いと人間はこんなにも残虐になれるものかと驚く。性善説がふっ飛ぶほど、秩序の甘さは人間にとって致命的と思わざるを得ないような例となってしまっている。主人公のFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)は優秀で勇敢だが、メキシコの地獄の中では普通のか弱い存在だ。一方でもう一人の主人公のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)は地獄に適応しており、冷酷なカルテルの人間たちを圧倒するくらいの鬼だ。以前は検事をやっていたというのだから、暗殺者への変貌ぶりがすさまじい。それも妻と娘が残虐な方法で殺されたからで、魂を悪魔に売って人間じゃなくなったかのような変わりようだ。元はやさしい人間だったのかもしれない。1ミリも感情をみせないようなアレハンドロだが、ベニチオ・デル・トロが演じると単なる復讐魔とはならずに深みが出るのがみごとだった。


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